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VISA株の検出率について

我が国で、バンコマイシン中程度耐性MRSA(vancomycin-intermediate S. aureus: VISA)が世界に先駆けて発見されたのが1997年です。これは、J Antimicrob Chemother. 1997 Jul;40(1):135-6.に「Methicillin-resistant Staphylococcus aureus clinical strain with reduced vancomycin susceptibility.」のタイトルでHiramatsu K, Hanaki H, Ino T, Yabuta K, Oguri T, Tenover FC.で論文化されています。

 さらに耐性機構として、異常ペプチドグリカンによる細胞壁肥厚とペプチドグリカン層内のAcyl-D-Ala-D-Alaの増加に伴うVCMの消費(Trapping)、さらにはペプチドグリカン合成系の更新によるVCMの消費によってVCM耐性がおきていることを証明しました。ペプチドグリカンの合成系が更新すれば、VCMが結合すべきLipid IIが大量に作られるのでVCMは消費されてしまいます。つまりVCMは二段階の消費によって耐性化される事になります。

  • Increase in glutamine-non-amidated muropeptides in the peptidoglycan of vancomycin-resistant Staphylococcus aureus strain Mu50. Hanaki H, Labischinski H, Inaba Y, Kondo N, Murakami H, Hiramatsu K. J Antimicrob Chemother. 1998 Sep;42(3):315-20. 
  • Activated cell-wall synthesis is associated with vancomycin resistance in methicillin-resistant Staphylococcus aureus clinical strains Mu3 and Mu50.
    Hanaki H, Kuwahara-Arai K, Boyle-Vavra S, Daum RS, Labischinski H, Hiramatsu K. J Antimicrob Chemother. 1998 Aug;42(2):199-209.

 この発見以来、世界中でVISA株が相継いで報告されてきました。我が国でも当然、検出され続けています。しかし、JANISのデータからは正確な数字をつかむことができません。なぜなら下図のようにVISA株は2011年に突然100株程度が出現し、2013年まではほぼ横ばい状態、その後は急激に減少しています。疫学上、このように異常な減少は起こりえません。良きにしろ悪気にしろ、ここには人為的な意思が関与しています。全国の病院からVISAとして報告があがれば、再確認の連絡が病院に入るようになりました。病院は基礎研究家ではないので基本的に菌株の保存は行いません。菌株がないので再現性が確認されずVISAから除外されてしまいます。これが下図の結果と思われます。

 これらのデータは疫学の専門家から見ると異常なデータと思われます。再現性が必要であれば、報告されたすべての菌を対象に行うのがサイエンスです。特定の菌のみを対象に行うのであれば科学的に正当な理由が必要です。その理由が本当にあるのでしょうか?


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